敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
そのあともいろいろと話し込んでしまい、牧田さんのマンションを出る頃には午後二時を過ぎていた。
もっと早く帰るつもりが思いのほか長居してしまい、慌てて那覇空港に向かう。
お土産を買う暇もなく、午後三時二十五分の便に搭乗。相変わらず離陸のときは生きた心地がしないし、シートベルト着用サインが消えてからもそわそわ落ち着かなかったけれど、昨日からの疲労が溜まっていたのか気が付くと眠りに落ちていた。
そのおかげで行きの便よりも飛行機の恐怖を味わうことなく、予定通り午後六時には羽田空港に到着した。
そこからバスに乗り、実家に帰ったのは午後八時。仕事道具や着替えなどを詰めたスーツケースをころころと転がしながらマンションの十三階にある自宅の扉を開ける。
「――ただいま」
玄関には革靴があり、すぐに兄のものだとわかった。珍しく仕事終わりにでも実家に寄っているのかもしれない。
リビングに入ると母と兄がダイニングテーブルの椅子に腰を下ろしてふたりで夕飯を取っている。今夜のメニューは豚カツだ。
「よっ、杏。おかえり。沖縄に行ってたんだろ」
ワイシャツにノーネクタイの兄が私に向かってすっと手を差し出す。どうやらお土産をせがんでいるらしいので「ないよ」と、その手を強く叩いた。
「ケチだなぁ」
兄がわざとらしく頬をぷっと膨らます。三十四歳の男がそんなことをしてもちっとも可愛くないのでやめてほしい。