敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
洗面所まで行くのが面倒でリビングと対面式になっているキッチンの流しで手を洗い、お米とみそ汁をそれぞれお椀によそってからダイニングテーブルの兄の隣に腰を下ろす。
豚カツはすでにお皿に乗った状態で用意されている。たぶんもう冷めているけれど、温めるとサクサク感が失われそうなのでこのまま食べることにした。
「どうしてお兄ちゃんがいるの?」
ちらりと視線を隣に送る。
私より六つ年上の兄――南沢慎一は商社マンだ。現在は航空関連の商品を取り扱う部署に所属している。子供の頃から飛行機が好きで、パイロットを夢見ていたこともあった兄にとっては最高の職場なのだそうだ。
海外出張が多いので、兄の奥さんである夕香さんはきっと大変なんだろうなぁと、二歳になる息子の雄心くんの子育てに奮闘中の彼女を尊敬してしまう。
そんな夕香さんと可愛い息子の雄心くんが待つ家に帰らないで兄はなぜ実家で夕飯を食べているのだろう。
「夕香さんが雄心くんを連れて実家に帰っているらしいわよ」
答えてくれたのは母で、早々と夕飯を終えた彼女はお皿を手に取り立ち上がる。キッチンに向かいながら右足を引きずっているところを見ると、今日は痛みがあるらしい。
「お兄ちゃん、夕香さんとケンカしたの?」
再び視線を隣に向けると、兄が「いいや」と首を横に振る。
「地元の友達の結婚式があるから帰省してんだよ。一週間ぐらい泊まってくるらしい」
「そうなんだ」
結婚三年目の兄夫婦は今でも新婚のように仲がいい。帰省の理由がケンカでなくてホッとする。