敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
母が足を悪くしたのは昨年の春に父が病気で亡くなってから一カ月後のことだった。
自転車で転んだときに関節を痛めてしまい、今でも歩行の際に痛みがある。時折足を引きずって歩いていて、日によっては歩くことすらままならないときもあるほどだ。
そんな母のことを思えば兄家族と一緒にバリアフリーの家で生活をした方がいいと私も思う。思うんだけど……。
「それって私はこの家を出ていかないといけないってことだよね」
この家を売るなら必然的にそうなる。まさか私まで母に付いていって兄家族と同居するわけにはいかない。
「そのことなんだけど、夕香が杏も一緒に暮らさないかって言ってるんだけど、どうする?」
「えっ、いや、さすがにそれは……」
夕香さんは優しい女性だ。
元夫の不倫がわかったときも一番に相談したほど私は夕香さんを実の姉のように慕い、頼りにしている。
夕香さんも私のことを実の妹のように可愛がってくれているので離婚をしたときも親身に相談に乗ってくれたし、今後の生活のことも気に掛けてくれた。
そんな夕香さんだから新しい家で私も一緒に暮らそうと提案してくれているのだろう。でも、さすがに私まで一緒に暮らすわけにはいかないし、そこまで甘えるわけにはいかない。