敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
「……もしもし、匡くん?」
『寝てたのか』
「ううん、起きてたよ」
電話に出るまで時間が掛かったので就寝中だと思われたらしい。『今電話してもいい?』と尋ねられたので「うん」と頷いてはみたものの、どうして匡くんから突然電話がきたのか不思議でたまらない。
『帰りの便は問題なかったか』
「えっ、うん。大丈夫だった。行きのときみたいな揺れはなかったよ」
『そうか。それならよかった』
電話の向こうで匡くんがホッと息をつくのがわかった。
もしかしてこの確認のためにわざわざ電話を掛けてきたのかな。
昨日は『海を泳いで帰れ』なんて冷たく言い放っておきながら、飛行機が苦手な私のことを心配してくれていたのかもしれない。
そういえば匡くんってそういう人だよなあ……と、彼との思い出の数々が懐かしく蘇る。
『ところで、杏の休みはどうなっているんだ』
「へ?」
突然の話題変更に即座に対応できなかった私の口からは間抜けな声が漏れた。
「私の休み? どうして?」
『食事に誘おうと思ったんだ。今度どこかで休みが合えば一緒にどう? 昨日の話の続きも聞かせてほしいし』
「昨日の話……」
沖縄料理屋でのことだろう。最後にどんな会話をしていたかな。しばし記憶を辿り、思い出した私は顔をしかめる。