敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 でも、匡くんの様子からすると連絡先は教えていないようだ。そして、自分が逆ナンされていたことに気付いていない。

 純粋に道を聞かれただけだと思っている匡くんは、自分がどれほど魅力的なオーラを放っているのかもっと自覚するべきだと思う。

「相変わらず匡くんはモテるよね。お兄ちゃんの誕生日プレゼントを一緒に買いに行ったときも匡くんが女の子たちに声を掛けられていたのを思い出した」
「そんなことあったか?」
「あったよ。私が中学生のとき。女の子たちがなかなか匡くんから離れていかないから、私が彼女のフリをして追い返してあげた」
「覚えてないな」

 そう言って匡くんはおもむろに歩き始める。そのあとを付いていきながら彼の背中に向かって声を掛けた。

「そういえば、匡くんは今彼女はいないの?」
「いない」
「それならよかった」

 ホッとして呟くと、前を歩いている匡くんがちらりと私を振り返った。

「それは俺に彼女がいなくて安心しているのか」
「うん。だって彼女がいる人とふたりきりで食事に行くのはマズいでしょ。バレて浮気を疑われたら大変だもん」
「……そういう意味か」

 匡くんの視線が再び前に戻る。

 私としては不倫や浮気といった修羅場にはもう巻き込まれたくないので、ここで匡くんに彼女の有無を確認しておくのはとても重要なことなのだ。
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