敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 匡くんの返答次第では焼肉をご馳走になれないところだったけれど、交際中の女性がいないとわかれば心置きなく食事を楽しむことができる。

 ホッとしていると、不意に冷たい風が吹き抜けていった。

「――っくしゅん」

 思わずくしゃみをしてしまう。それに気づいた匡くんが立ち止まり、羽織っていたシャツを脱ぐと私の肩にかけてくれた。

「これでも着とけ」
「えっ、でも匡くんは?」
「俺は寒くないから」

 七分袖の私よりも半袖カットソーの匡くんの方がどう見ても寒そうなのに。それでも彼は平然とした様子で再び足を前に進める。

 ここでシャツを借りる借りないの押し問答を繰り広げても仕方ないので、彼の厚意をありがたく受け取ることにした。

 匡くんのシャツに腕を通すと予想通りぶかぶかで袖先がだいぶ余っている。

 それになんだかいい匂いがして、袖のあたりを鼻先にくっつけてクンクンと嗅いでいると、振り返った匡くんに「変態」と冷たい視線を向けられた。変態だなんて思われたくないので、すぐに反論をする。

「だって匡くんのシャツいい匂いするから。香水?」
「俺がそんなのつけていると思うか。柔軟剤だろ」

 それだけでこんなにいい香りするかな。どんな柔軟剤使っているんだろう。

「それよりも早く歩け。誰かさんが遅れてきたせいで予約の時間が過ぎてる」
「あ、そうだよね。ごめんなさい」

 足早に歩く匡くんのあとを私は慌てて追いかけた。
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