敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

「それもそうか」

 匡くんは静かに頷いた。そのまま視線を落とし、なにかを考えるような真剣な表情で黙ってしまう。

 しばらくすると、すっと視線を持ち上げて私を見据えた。

「それなら、俺が杏の身内になればいいんだな」
「ん?」
「俺と結婚するのはどうだ」
「……え」

 どうしてそうなったの⁉

 目を丸くさせたまま言葉を失う私に匡くんは〝結婚〟という結論に至るまでの経緯を淡々と話し始める。

「結婚して杏が俺の妻になれば一緒に暮らす理由ができる。夫婦なんだから財産も遠慮なく共有すればいい。これで俺は堂々と杏を助けられるし、杏も堂々と俺を頼ることができる。そうだろ?」

 そうだろ?と言われても、そうだねとはすぐに頷けない。

「それに、杏と結婚することで俺も女避けができてちょうどいい」
「女避け?」

 首を傾げて尋ねると、匡くんがため息を落とす。

「職場の女性たちからたびたび食事に誘われたり、連絡先を教えてほしいと声を掛けられるが正直迷惑している。いちいち断るのも面倒だ」
「それなら断らなければいいのに。匡くんの職場の女の人ならこの前沖縄で会ったときみたいな綺麗な人たくさんいるんでしょ。せっかくの誘いを断っちゃうのもったいな……ごめんなさい」

 喋っている途中で匡くんにぎろりと睨まれて慌てて口を閉じた。

 どうやら本気で女性に誘われるのをうっとうしく思っているらしい。そういえばさっきも女性に連絡先を聞かれて断っていたっけ……。
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