敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
パイロットになれば俺も杏にかっこいいと思ってもらえるのか――。
ふと、そんなことを考えた覚えがある。
『なぁ、杏。パイロットになったら俺のこともかっこいいって思う?』
『うん、思う』
にっこりと笑う杏を見て、案外単純な俺は思ってしまった。
杏にかっこいいと言われたい。
『じゃあ俺もパイロット目指そうかな』
すっきりと晴れた空に夏らしいもくもくとした入道雲が浮かんでいる。その前を横切って飛ぶ飛行機をぼんやりと見つめながら呟いた。
『匡くんなら絶対になれるよ。パイロットになったら教えてね』
屈託のない笑顔を向ける杏に視線を落とす。俺の表情も自然と緩まり笑顔で頷いた。
たったこのひと言で俺の将来の夢は大きく変わった。
その数年後、まさか杏に心まで奪われるとは思いもしなかったけれど――。