敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
事情があって俺は杏に自分の気持ちを伝えられない。
もしも伝えたら杏が俺から離れていくとわかっているから、杏を好きだという気持ちは今はまだ自分の胸にしまっておくしかない。
「藤野さんの奥さんになる人かぁ。女性の誘いには一切乗らない難攻不落の藤野さんを落とした女性……気になる!」
「普通の子だよ。まぁ俺にとっては特別な子だけどな。俺がこの仕事をするきっかけをくれたのも彼女だったから」
杏にかっこいいと思われたくてパイロットを目指した。
動機としては不純だったかもしれない。けれど、もともと航空関係の職には就きたいと思っていたし飛行機も好きだったから、そのうち本気でパイロットを志すようになった。
その頃にはもう杏にかっこいいと思われたいなんて子供っぽい考えは持っていないはずだった。それでも心の片隅にはその言葉を期待している自分がいたのかもしれない。
航空会社に就職して数カ月が経った頃、久しぶりに杏と会う機会があったのでそれとなく俺がエアラインパイロットとしての道を歩み始めたことを話題に乗せたことがある。
けれど、杏の反応は俺の期待を大きく裏切るものだった。
『そうなんだ。頑張ってね』
あっさりとした言葉に、それだけかよ……と肩透かしを食らったのを覚えている。杏ももう女子高生なのだから、さすがに飛行機への興味は薄れていたのだろう。
それどころかその翌年には飛行機が苦手になってしまったのだから俺としてはつらいものがあった。