敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている
『決めた! 私はもう二度と飛行機には乗らない』
慎一に用事があって南沢家を訪れると、ちょうど修学旅行先である沖縄から帰ってきた杏が突然そんな宣言をした。
慎一と共にその理由を尋ねると、往路便が悪天候で揺れて生きた心地がしなかったからだそうだ。
だからもう二度と乗りたくないし、飛行機なんて大嫌いだと大騒ぎする杏に『お前よくもパイロットである俺の前で飛行機が嫌いとか言えるよな』と、呆れつつ内心ではけっこうヘコんだ。
杏の飛行機嫌いは継続中らしい。
沖縄で再会したときも〝乗りたくない乗り物ナンバーワン〟だと言われてしまった。まぁもう仕方のないことにして、そんな会話の途中で不意に杏の左手薬指に視線を送ると、そこにあるべきはずのものがないことに気が付き違和感を覚えた。
杏は一年前に結婚をしたはずだ。それなのになぜ結婚指輪をつけていないのだろう……。
もちろん必ずつけなければならないものでもないので既婚者でも左手薬指に指輪がなくてもおかしなことではない。けれど、なんとなく胸がざわついた。
そのあとで杏の口から〝離婚〟という言葉が飛び出したときは、慎一から杏の結婚報告を受けたときと同じくらいの衝撃が俺の全身を貫いた。