敏腕パイロットは契約妻を一途に愛しすぎている

 隣の席で寝ていたおじさんも少し前に目を覚ましており、こちらに顔を向けると私に声を掛けてきた。

「ゴーアラウンドしましたね」
「ゴーアラウンド?」

 なんだろう?

 聞き慣れない言葉に首を傾げたとき、『操縦室よりご案内します』と機長からアナウンスが入った。

『空港周辺の気流がかなり悪く安全な着陸ができないと判断しました。現在は安全な高度まで上昇して飛行しております。天気を再度確認中ですので今しばらくお待ちください。気流の影響で若干揺れるかとは思いますが機体には問題がありませんのでご安心ください』

 離陸後に聞いたときと同じく抑揚のない声の淡々とした話し方だったけれど、不思議と気持ちが落ち着いた。たぶん、実際にこの飛行機を飛ばしている人の言葉だから心強く感じたのかもしれない。

 機長が問題がないと言っているのだから信じよう。

「やっぱりゴーアラウンドですね」

 隣の席のおじさんがふむふむと頷く。どうやらこの状況のことをゴーアラウンドと呼ぶらしい。

「このまま着陸できればいいけど、できない場合はダイバートになるかもしれないな」
「ダイバート?」

 またも聞き慣れない言葉が出てきて首をかしげると、おじさんが説明してくれる。
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