ブルブルと首をふる。
「大丈夫。どこにもバッタなんかいないから。」
ぎゅっと手をにぎって、柔らかい声色で話しかけてくれる。
その優しさに安心していき、ゆっくりと目を開けてみた。
「ほら、大丈夫だったでしょ?」
目の前にも足にも、バッタの姿はなかった。
「ほ…ほんとだ。ありがとう……」
安堵のため息をもらし、前を見た。
「………え……、し、四宮君?」
「うん、てか今気づいたの?」
私が今も抱き着いている相手、それは、四宮君だったのだ。
急に全身の体温が上昇し始める。
「ご、ごめんなさい。てっきり女の子だと思って……きもいよね。ほんとごめん。」
いそいで四宮君から距離を取ろうとする。
「あ…まだ近くにいるかもしれないけど。バッタ。」
「えっ…」
離れかけていた私の体は、四宮君の手に引かれ一瞬でもとにもどってしまった。
やばい。とにかく恥ずい。今すぐここから離れたい。
だが、四宮君の手は私の腕をつかんだまま離さない。
「………あの。なに?もしかして怒ってるの?」
「怒ってないよ。ただ、やっぱ面白いなって思って。虫苦手なんだ。」
あーもう。本当最悪だ。
「顔赤いよ?図星なの?」
「………さっきの見られてたんなら何も言えないよ。」
だって、まさか四宮君だとは思わないじゃん。
ここは、私しか知ってる人いないと思ってたから……。
「てか、なんでここに来たの?優希さん、今日早く帰ってったよね?」
「あー……。」
今日の噂のことを思い出して、自然に口角が下がる。
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