そんな裏設定知りません! 冷酷パパから結婚を申し込まれましたが、これって破滅フラグですか?

おまけに楽師たちの手が止まり、賑やかな曲も止まったことで、その場の温度まで一気に下がってしまったような気持ちにさせられる。

ゼノンの斜め後ろに控えていた側近の男性が、そっと主君のそばで片膝をついた。


「姫様がいらっしゃいます。折角ですし、お呼び致しましょうか?」


そう問いかけられ、ゼノンの漆黒の瞳がソフィアの姿を捕らえた。いつもと変わらぬ冷たい眼差しにソフィアの小さな体が震え上がる。


「その必要はない。それより酒だ」


小さく鼻で笑ってからのゼノンのひと言に誰かの笑い声が続いた。

侍女がお酒の入った大きなピッチを持って歩み寄れば、ゼノンの右隣の美女がグラスを差し向ける。

美女が注がれたお酒をひと口飲んでから、やっとグラスがゼノンの手に渡った。

「演奏はどうした」と鋭く指摘したことで、慌てた様子で曲が再び奏で始められ、ゼノンは満足げに微笑んでお酒を飲んだ。


「姫様、離れましょう」


やっぱり私は疎まれてると改めて実感して気落ちしたところで、ソフィアはハンナに腕を掴まれた。

なんとか首を縦に振り返した瞬間、ばしゃりと大きな水音が響き、同時に後ろを振り返ったソフィアとハンナは息をのむ。

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