イケメン、お届けします。【注】返品不可
彼の甘い笑みに直撃された販売員は、再び頬を赤く染めながら、「お待ちしております」と店の出口までわたしたちを見送ってくれた。
買い物客で混み合う通路を進みながら、今日一番の演技力を発揮していたオオカミさんに苦情を申し立てる。
「ただの冷やかしなのに、あんな思わせぶりなこと言っちゃって……。全部の指輪を買いたいと匂わせておきながら、何にも買わないなんて詐欺に近いですよ」
販売員をぬか喜びさせてしまったようで、罪悪感が募る。
物を売る仕事に、ノルマや販売目標は付き物だ。
型破りな客に懇切丁寧に対応し、一円の売り上げにもならないなんて、気の毒すぎる。
「冷やかしではない。いずれ買うのは本当だ」
きっぱり宣言したオオカミさんは、「再度来店する」とは言ったが、「いつ」とは言わなかった。
これから先、結婚したいと思う相手に出会った時、あの店の指輪を贈るつもりなのかもしれない。
その時は、ふたりで選ぶのか。
それとも、こっそり選ぶのか。
いずれにせよ、その相手はわたしではないことだけは、確かだ。
わかりきっていることなのに、なぜか胸がチクチクする。
「それ、十年後とかじゃないですよね? なるべく早い方がいいと思いますけど」
「安心しろ。十年も待たせるつもりはない」
「それならいいんですけど……」