財界帝王は初恋妻を娶り愛でる~怜悧な御曹司が極甘パパになりました~
 代々地主としてこの土地に住み、昔ながらの二階建ての日本家屋。敷地は五百坪と広く暮らしやすいが、現在名雪流の華道教室を経営しているものの固定資産税などの税金で収入はほぼ吸い取られているのが現状。

「送ってくれてありがとうございました」

 好きな京極さんと時間が過ごせたし、卒業のお祝いをしてくれる約束まで出来てうれしい。

「ああ。近いうちに連絡をする」

「母に会わないのですか?」

 幼少の頃から京極さんを知っている母は彼に会いたいと思うだろう。

「もう遅いからな。こんな時間に挨拶するのは迷惑だ」

「わかりました。気を付けてお帰りください。あ、降りなくていいです」

 運転席のシートベルトを外してドアに手をかけた京極さんを止めて、外に出てドアを閉める。

 助手席の窓が下げられ、こちらに身を乗り出す京極さんにペコリと頭を下げる。

「おやすみ。入って」

「おやすみなさい」

 今ではなかなか手に入らない一枚杉の門扉の隣の通用口を開けてから車の方へ振り返り、もう一度お辞儀をして通用口の木戸を閉めた。そこで立ち止まっていると、車のエンジン音が過ぎ去っていくのが聞こえた。
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