財界帝王は初恋妻を娶り愛でる~怜悧な御曹司が極甘パパになりました~
「きょ、京極さんっ、イヤリングをつけて、くれませんか……?」

 思いきってイヤリングを持ったが、京極さんに渡せない。

「貸して」

 手のひらを上に差し出され、ぼうっとしたままイヤリングを落とした。

 京極さんの吐息がわかるくらいに顔が耳元に近づけられ、指が耳朶を触れる。

「紗世の耳朶は赤ちゃんの肌みたいに柔らかいな」

「あ、赤ちゃんの肌なんて、京極さん知っているんですか?」

 口から心臓が飛び出そうなくらいドキドキしている。

「まったく……紗世は男に慣れていないな」

 侑奈が言っていた『切羽詰まった顔で誘惑したら逃げるわよ』というアドバイスを思い出す。後腐れのない関係を求めているように見せなきゃ。

 耳朶にイヤリングの微かな重みを感じた。

 京極さんに顔を向けて微笑みを浮かべる。

「そんなことないですよ」

 そう言った瞬時、京極さんの眉根が小さく寄せられるが、かまわず続ける。

「慣れていないわけじゃないです。後腐れのない関係が好きなので、特定の人がいないだけで」
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