財界帝王は初恋妻を娶り愛でる~怜悧な御曹司が極甘パパになりました~
 特定の人は……我妻社長になるかもしれない。

 彼の顔を思い浮かべて、やはり一度だけでも京極さんと経験したいと強く思った。

 京極さんの手の甲に手をそっと重ねる。

 どうか拒絶しないで……。

 京極さんの顔が見られないまま、重ねた手を上に向けて恋人繋ぎのように指の間に指を差し入れて軽く握る。

「紗世? 酔っているのか?」

 私の鼓動の高鳴りとは正反対に、京極さんの声は冷静だ。

 もっと飲ませてからにすれば良かったなどと頭をよぎるが、もう後に引けない。

 男性の誘惑の仕方なんてわからないが、羞恥心はどこかへ追いやった。

「京極さん、私、お酒を飲むと……したくなるんです」

 言っちゃった。

「紗世?」

 当惑している様子は至極当然。今までこんなふうに手を繋いだこともない、妹のような存在の私なのだから。

「……もっとお酒……飲ませてください」

 お酒のせいで掠れた声は甘えたように聞こえる。爆弾発言をしたのにその件について答えが得られず、恥ずかしさばかりが先に立つ。でも、恥ずかしがっていたら望みは叶えられない。
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