最初で最後の恋をおしえて

「紬希が気持ちを自覚するまで、黙って待つのは性に合わない」

 そう言って、羽澄は頬にある手の親指で唇をなぞる。妖しく細めた目がやけに色っぽい。

 堪らず手で彼の胸を押し返す。

「やめてくださいったら!」

 また彼のペースだ。

「覚悟しておいて、俺は先に自覚してるから、手加減しない」

「なにを」

 つい聞き返して、しまったと思っても取り返しは効かない。

「紬希が好きだ」

 真っ直ぐに見つめられ、目を逸らせない。胸は鼓動を速め、息がしづらくなる。

「早く俺に追いついてくれ」

 顔が近づいて思わず目をギュッとつぶると、鼻に噛みつかれた。

「ハハ。鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる」

 からかわれても、なにも言えない。

「朝食、食べよう」

 羽澄は紬希から体を離し、サラダをトレイに乗せる。

「パンでいい?」

 戸棚からクロワッサンを出す彼を見て「お洒落ですね」と感想を漏らす。

「もしかしたら、きみが泊まるかもと思って格好つけただけ」

 思わぬネタバラシをされ、「ふふ」と笑う。

「トーストも好きです」

「そうか。それなら、次はいつも通りにしよう」

「でもたまにはクロワッサンで」

「ああ。そうだね」

 これからも朝食を食べる前提で話は進む。それでも不思議と嫌ではなかった。
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