最初で最後の恋をおしえて
「今思えばというのは色々あるけど、劇的に思い知らされたのは、婚約者として初めて会った日かな。あの料亭で」
思ってもみなかった日だった。紬希にしてみたら、あの日にいい思い出はない。
「どこで。まさか婚約者だと知ったから、とは言いませんよね?」
それではただ、そうあるべきという思い込みだ。
羽澄は苦笑して首を横に振る。
「いや。婚約者というのは、出向して職場で挨拶したときに「ああ、この人が」という認識があったよ。俺は最初から、如月のお嬢様と結婚と決められていたから」
そう聞くと心苦しくなる。逃げ出したくなるのは頷ける。だからこそ、羽澄はずっと自分を疎ましく思っているのだとばかり思っていた。
頬に手が触れて、ハッと我に返る。
「そんな顔するなよ。俺は納得していたし、別に結婚に夢を持っていたわけじゃない。ただ」
羽澄の目を見つめ、続きを待っていると、彼は微笑んで言った。
「相手が紬希で、本当に良かったと思っている」