最初で最後の恋をおしえて
髪に手を差し入れられ、くすぐったい。首を縮めると、頭を撫でられた。
「最初は自分の婚約者がどんな人なのか、興味本位で近づいた。話してみて、いい子だなと思ったよ」
手放しで褒められると、なんだかムズムズする。
羽澄は、なおも続けた。
「きみは俺が婚約者とは知らないようだったから、数日は隠したまま接した。婚約者として会う日の前日、もう恋についてのやりとりをやめようとメッセージが来たときは愕然とした」
羽澄は紬希が持ったままだったマグカップを受け取り、テーブルに置いた。そして、再び話し出す。
「婚約者と知らされていない、ただの俺の手を取ってほしかった。だから俺と逃げないかと持ちかけた」
紬希は首を横に振り「そんなことできるわけありません」と正直に答えた。
「うん。わかってるよ。けれどショックだった。せめて、婚約者が俺と知って喜んでほしかった」
羽澄は真っ直ぐに紬希を見つめる。
「けれど、紬希は『逃げてくださって大丈夫です』と言った」
寂しそうに歪む眼差し。つらくて思わず目を逸らした。