最初で最後の恋をおしえて
羽澄は頬に手を添えて、紬希の目を見つめて言う。
「俺は、如月のお嬢様から逃げたかった男だ」
改めて宣言されると、胸は音を立てて軋む。
「それなのに、逃げたかった相手に恋をした」
軋んだ胸は、驚いて不正脈を起こしそうになる。
そうだ。婚約者の立場から逃げればいいのに、彼は逃げなかった。その理由が、彼の語る通りだとしたら。
「いっそ婚約者としての立場を利用して、紬希の側にいてやろうと企てるくらい、俺は悪い男だ」
言葉だけ聞けば、ひどい話をしているのに、羽澄は優しい表情をして甘く囁く。
「紬希、きみが好きだ」
真っ直ぐに紡がれる想い。自然と涙が溢れ、声が震える。
「私も、私も大和さんが好きです」
やっと素直に言えた気持ち。
「ああ」と羽澄は短く言い、顔を近づけて唇を触れさせる。おでこをすり合わせ、苦笑混じりに告げた。
「ごめん。余裕をどこかに忘れてきたみたいだ」
掠れ声は、胸の鼓動を速めさせる。
「もう夢だと思えないくらい、紬希のすべてがほしい」
「私も、大和さんに想われているって感じたいです」
思わずこぼれた本音に、羽澄は何度も頷く。
「そうか。そうだよな。気持ちが通じ合う前に、体だけじゃ不安にもなるよな」
自分の不安定な気持ちの理由を言い当てられ、紬希自身、納得した。
「私、不安だったんだ」
改めて声に出すと、唇が重なった。
「好きだよ。どれだけ言っても足りない」