最初で最後の恋をおしえて
顔を上げた羽澄は、真っ直ぐに父を見据えて言った。父は小さく笑ったあと、なぜか思い出話を始めた。
「紬希が生まれたとき。今まで大きな声で言えはしなかったが、女の子でうれしかった」
それは、紬希も初めて聞く話だった。
如月家の跡取りなのだから、男の子がよかったのでは? 小さな頃から感じていた思いは簡単には口に出せず、父の話の続きを聞いた。
「自分が男で大変だったからね。子どもに同じ思いをさせたくなかった。男の子だったら経営者として接しないといけない。親としてかわいがれない。だから女の子で、うれしかった」
父は忙しい人ではあったけれど、記憶にあるのは、どれも子煩悩な姿。
胸がいっぱいになり、目頭が熱くなる。
「それでね。羽澄くん。きみのお父さんの話は、したことがなかったね」
紬希の隣で、羽澄がこわばったのがわかった。以前聞いた話では、幼い頃に亡くしているらしい。
父は構わず話し続けた。
「頭のいいやつでね。正義感に溢れていた。きみのお父さんもお母さんもお互い親に恵まれず、早くに亡くしていたようだった。それでも人を憎まないようなふたりが惹かれ合うのに、時間はいらなかったんだろう。とても似合いの恋人だった」
羽澄の両親の若かりし頃の姿。羽澄に重なる部分がある。
羽澄はなにも言わず、父も話し続けた。
揚々と話していた雰囲気から変わっていっても、父は話をやめなかった。