最初で最後の恋をおしえて
食事をし愛し合った後、羽澄は少しだけ拗ねた声を出す。
「今日も帰るの?」
毎日のように羽澄の自宅に寄り、どれだけ時間が遅くなろうとも、紬希は帰るようにしていた。
一緒に住む話も出ているが、そこはケジメだと思っている。外泊はやっぱり後ろめたさがあって。
「はい。私、まだ羽澄さんのお母様にご挨拶もしていませんし」
羽澄は紬希の両親に会っている。それなのに、紬希は未だ羽澄の母に会っていなかった。
「そこは気にする必要ないよ。母は俺たちの結婚に乗り気だ。ただ、なかなか予定が合わないだけで」
「でも、大切です。羽澄さんのお母様はどんな方なんですか?」
羽澄は逡巡してから、口を開く。
「自分の親ではあるが、美人だと思う。美人で、ちょっと面倒臭い」
苦笑する羽澄に紬希は不安を抱く。
「仲良くなれますでしょうか」
元々、女性と仲良くなるスキルが低いとの自覚がある。
「大丈夫」
紬希の質問に答えるまでに、若干の間があって、余計に不安になる。すると紬希の髪を撫で、羽澄は微笑んだ。
「早めに会わせられるよう、努力する。でないと俺が紬希不足で、会社だろうと関係なく無意識に紬希を抱き締めそうだ」
「だ、ダメですよ?」
一度、資料室でたまたま顔を合わせたとき、キスをされ、止まれなくなった状況を思い出す。
散々キスをしておいて『その顔で職場に戻らない方がいい』と耳元で囁いた羽澄は妖艶な笑みを瞬時に仕舞い、涼しい顔で戻っていった。
こっちは熱った顔を収めるのに、調べに来た資料を資料室で熟読しなければならなくなった。お陰で、野々山さんが心配して探しに来たくらいだ。
『良かったわ。あんまりに戻って来ないから、また女性社員に囲まれているのかと心配で』
迎えに来た野々山さんが『わざわざ資料室で読まなくても、持ってこればいいのに』と不思議そうに助言してくれても、『戻れる顔じゃなかったんです』とは言えず困ってしまった。
「わかってる。そうならないためにも、早急に母と予定を合わせるよ」