最初で最後の恋をおしえて
「ライオンに立ち向かう小ネズミって感じ。決死の覚悟で挑んでいるのに、笑顔で返り討ちにされてる、みたいな」
羽澄ライオンに立ち向かう小ネズミ紬希。イメージ出来てしまう自分が憎い。
「待って待って。小学生たちの行動をなぞっていこうっていうのは、彼と相談した結果であって」
「うん。まあ、ねえ」
言葉を切り、考えてから、葵衣は再び口を開いた。
「だって彼、きっと百戦錬磨の強者よ。そんな人に恋の良さをわからせるって、なかなか無謀な挑戦だなって」
葵衣の意見に、紬希は「うーん」と唸る。
「まあ、だからこそ彼も知りたいんでしょうけど」
葵衣はどこか哲学的に呟いた。
紬希は紬希で、感じたままを話す。
「でもね。葵衣。私は確かに恋した経験はないわ。でも、恋の良さは分かっているつもり。それを彼に伝えればいいと思わない? ただ、伝え方がイマイチわからないんだけど」
今の状況では、羽澄にトキメキを知ってほしいのに、自分ばかりジタバタしている気がしてしまう。
「今日も会うんでしょう? 意見を擦り合わせてみればいいんじゃないかな。メッセージのやり取りと、会社での行動をしてみて、彼も思うところがあるかもしれないし」
「そうだね! そうする!」
彼は敵ではない。彼こそ恋を知りたいと言っている張本人だ。彼みたいな人に恋の良さを知ってもらえたら、紬希もうれしい。
もしかしたら、「きみでは見当違いだった」と言われるかもしれない。それならそれで仕方がない。
葵衣と話したお陰で、晴れ晴れとした気持ちになり職場に戻った。