最初で最後の恋をおしえて
「如月さんはどう? 数日過ごしてみて」
声をかけられて、ハッと我に返る。
「私は、羽澄さんにからかわれて、ジタバタしていました」
つい不満が出て、かわいいと言われたばかりなのに、かわいくないなと自分で思う。それなのに羽澄は穏やかに言う。
「だから、からかってないよ。それに如月さんのお陰で、恋の良さがわかる気がしてきたんだ」
「本当ですか!」
うれしさのあまり、無意識に彼の腕をつかんでしまった。慌てて手を離し、体を元の位置に戻す。
「ごめんなさい。興奮してしまって」
「いや、うん」
気まずい雰囲気を払拭するように、羽澄は優しく聞いた。
「どうしてそんなに恋にこだわるの?」
「それは……」
コーヒーカップを両手で握り、その湖面を見つめ口を開く。
「私、恋はしないって決めているんです」
紬希は、羽澄の返答を聞く前に続けた。
「私も婚約者が決められていて、だから独りよがりかもしれないけれど、その人への誠意のつもりです」
自分は世襲制である如月家に生まれたひとり娘だ。相手は必然的に婿養子となり、如月家を背負ってもらわなければならない。
自分ではなし得ない責務を負担させてしまうのだから、自分の人生はその人のために使うのが当然だと考えていた。