最初で最後の恋をおしえて
「それは素晴らしい心がけだ。けれど相手はそんなことも知らず、ものすごく遊んでいるかもしれないよ?」
今までずっと穏やかで優しい羽澄にしては、意地悪な言い方だ。試すように紬希を覗き込んでいる。
紬希は頭を振って、それに応えた。
「いいんです。私がそうしたいだけですから」
「そう」
短く言った羽澄は、ぽつりと呟いた。
「その人は、とても幸せな人だね」
どう返せばいいのか思い悩み、しばらく沈黙が続いたあと、羽澄が訪ねた。
「それなら、どうして俺に協力してくれたの?」
『恋をおしえて』そう言った羽澄。本来なら、関わらないようにするはずだった。
「俺にも婚約者がいると聞いたから?」
核心をつく問いかけに、紬希は頷く。
「それもあるかもしれません。あとは、やっぱり恋の良さを知らないなんて、寂しいなって思ってしまって」
自分の境遇と重ねたのも、多少あるかもしれない。
けれどそれよりも、決められた結婚に対し、『逃げたいんですか?』と聞いたときの、『そうかもしれないね』と言ったどこか悲しげな羽澄を放っておけなかったのだと思う。
「自分は恋をしないと決めているのに?」
当然の質問に、紬希は苦笑する。
「自分はしなくても、恋バナを聞くのは好きなんです。それで十分、恋の良さは知っているつもりですから」
「そうか。うん。ありがとう」
なんに対しての『ありがとう』か。よく理解しないまま、「いいえ。恋の良さを知っていただければ、それで十分です」と応えた。