もう、キスだけじゃ足んない。


けどさー、ふたりかー。

んーーーと渋い顔で頭を抱え込む杏。


わかる。わかるよ。

めちゃくちゃうれしいけど、めちゃくちゃきついよな、ふたりだけって。

男だし。
それはもう、いろんなこと考えてるし。


いくら幼なじみとはいえ、家の中にふたりだけってなったらわけがちがう。


その相手が好きな子、ましてやずっと片思いしてて、ようやっと付き合えた子で。


理性なんかくそくらえだよ、まじで。


ま、俺の場合は中学のときに胡桃にそれがバレたことがきっかけで、お互い離れ離れになっちゃったわけだけど。


「んー、俺はいいけど、桃華しだいかなぁ……」

「桃華しだい?」

「うん……」


胡桃も俺も、とっくの昔に気づいてる。


ずっと仲のいい幼なじみ。

けど、恋愛の面では、いつぞやの俺たちみたいにずっと拗れてすれちがってる。


ふたりの問題だから口には出さないけど、ふたりで生活するからには、杏には男を見せてほしい。


「杏、がんばれ」

「遥も。理性とか」


「はぁ……そうなんだよな……」


またはじまる同居生活。


胡桃の心の声。

聞きたいけど、かわいいその声を聞いちゃったらそのたびに俺、胡桃のこと押し倒す気がする。


現に昨日、心の声で「気持ちよかったから」なんて言われて死にかけたし。


ああ、これがよく言うキュン死か……幸せ……とかあの瞬間めちゃくちゃアホになってたから。


いや、胡桃の前だといつもアホだな俺は、うん。


「気持ちよかった」とか、俺から聞くことはあっても胡桃から言うことはないし。


ほんと、心の声最高。

心の声って俺のためにあったんだなって思った。
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