もう、キスだけじゃ足んない。


「はる、か……?」

「っ、は、え?」


「似合って、ない?」

『黙っちゃってるし、そんな黙るくらい似合わなかったのかな……』


ハッとして慌てて胡桃を見れば、悲しげに目を伏せていて。


『昨日今度着て見せてって言ってたから、疲れてる遥のこと、喜ばせたかったんだけどな……』


っ!!


「ちがう……っ!!」

「え……」


泣きそうな顔を見た瞬間。

俺は弾けるように、胡桃を抱きしめていた。


「はる、か……?」


胡桃の驚いたような、くぐもった声が聞こえる。

こういうとき、俺の心の声が聞こえたらいいのに。


前みたいに俺の心の声が聞こえたら、一秒だって、胡桃をこんな顔にはさせないのに。


「かわいすぎて」

「え?」


「その、直視できないくらいかわいくて、ほんと言葉なくなったっていうか……フリーズ、しました」


「ふふっ、なんで敬語?」

「なんとなく……?」


「そっか」

『よかった……』


揺れるおでこにそっと唇を寄せて、頭をなでれば、ドッドッドと早まっていた彼女の鼓動が次第に収まっていく。


かわいいな……。


外での俺と、胡桃とふたりだけのときの俺。

ほんと、ちがいすぎて笑けてくる。


胡桃の言動一つ一つにこんな一喜一憂してるなんて、胡桃以外、だれにも見せられない。


「けどこんなかわいーので出て、変なやつに声とかかけられなかった?」


「そ、それは大丈夫だよ!」


「ほんとに?」


「ほんと!」
『あのときは男装したあーちゃんがずっとそばにいてくれたから』


「え。天草、男装してたの?」
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