もう、キスだけじゃ足んない。


「う、うん。
今度こそボディーガードちゃんとしなきゃって」


そういや接客のとき、胡桃のボディーガード天草に頼んだんだった。


めちゃくちゃ張り切ってたからどうしたのかと思ってたけど、まさかの男装……。


「それはちょっと見てみたかった」


「うん。あーちゃん、めちゃくちゃかっこよかったよ」

「そっか」


今度、天草にお礼言っとかなきゃだな。


「けど、いくら男装とはいえ、他の男をかっこいいって言うのは妬ける」

「あーちゃん女の子だよ?」


知ってる。けどそうじゃなくて。


「……笑うなよ」

「ふふっ、ごめんって」

『だって、うれしくて。遥かわいい』


「はぁ……」

「遥?」


「なんでもねーよ」


かわいいなんて、それはおまえだろ。

クスクス笑う胡桃に、照れくささからもう一回。


「っ、はるか、」

「ばか」


今度は頬に。


妬けるんだよ。

いくら女子が相手でも。

胡桃がかっこいいと思う相手は俺だけでいいし、かっこいいって言ってくれるのも俺だけがいい。


今回は天草がいてくれたからよかったけど、胡桃はかわいいし、いつ声をかけられるかわからない。


学校でだったら天草がいるけど、それ以外は。

俺はいつもそばにいられるわけじゃない。


心の声のことだって、胡桃、1人で抱え込んでたし、
ただでさえ、俺がこの仕事してるから、めちゃくちゃ気使ってるの、わかるときあるし。


だから、胡桃の心の声を意地でも聞きたいのは、これが本当の理由。


俺がそばにいるときくらい。


本心では思ってる甘えとかおねがいを、いくら本人が口に出さなくても、心の声を聞いてぜんぶ応えてあげたいから。
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