英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。

秘密を少し

ノクサス様が「美味しい」と喜んで食べてくれて、たくさん作ったサンドイッチは全く残らなかった。

「また、作ってくれると嬉しいのだが……」

少し照れたように、ノクサス様がお願いしてくると自然と口元が緩んだ。

「はい。今度は休日が合えばどこかにピクニックにでも行きましょう」
「それは楽しみだ。必ず休日を取るぞ」

さっきまでの、公開訓練場で剣を振るっていた殺伐としたノクサス様とは、全く雰囲気が違った。
まるで別人のような雰囲気だ。
穏やかにバスケットを片付けていると、ミストはやっと食べ終わったか、と待ちきれないように膝に乗って来た。

「ダリア様。目的のものを見せてもらってください」
「ノクサス様はお疲れよ。もう少し休ませてあげても……」
「目的のものとはなんだ? 他になにか用があるのか?」

問いかけるように隣にくっついて座るノクサス様は、私からミストに視線を移した。

「僕たちが隠した記録を見せろ。本当にここに隠してあるのか信用出来ないからな」
「僕たち……? ミストは、ダリアの秘密を知っているのか?」
「当然だ。セフィーロ様の使い魔だからな」

ノクサス様は、「猫に負けた……」とうなだれてしまった。
そして、いきなりハッとした。

「……セフィーロ? まさか、叡智の魔法使いのセフィーロか?」
「ご存知で? 私の師匠なのですよ」
「知っている! フェルたちと探していたんだ! 住処もわからないし、全く痕跡がないからもう諦めかけていたのだが……まさか、亡くなったというのは……?」
「ミストが看取ったそうです。私も後から他界したと聞いて。でも、師匠は変人と言われていましたから、弟子の私にも理解に及ばないところのある方でしたので」
「そうだったのか……」

そう呟くと、ノクサス様は立ち上がり鍵の付いた引き出しを開け始めた。
鍵は、いつも持ち歩いているのか、腰に鎖で繋いでいた。

「これを隠していたのは、ダリアたちということは、そのセフィーロも関わっていたのか?」

出された一枚の記録をノクサス様は、私とミストの前に出した。
言いにくくて言葉が詰まった。でも、ノクサス様に嘘や隠し事をすることに、最近は胸がチクリと痛んでいた。誠実な眼差しを向けて来るノクサス様に、罪悪感があったのだ。

「……私とお父様が師匠に頼みました。お金を払って仕事として頼んだのです。師匠の力を借りて、騎士団の記録庫に忍び込みました。罪に問うなら私だけにしてください。お父様は何も悪くありません」

いくらもう他界していたとしても、お父様に罪を着せるつもりはない。
ただ瞼を閉じて静かにそう言った。

「ダリア様は何も悪くない! 悪いのはダリア様を傷つけたあの男たちだ!」
「男たち……? 背中の傷はその男たちにつけられたのか?」
「背中の傷をどうして知っているのですか?」
「……実は、一緒に寝た時にナイトドレスから背中が見えてだな……」

気付かなかった。何も言わなかったから、背中なんか見られてないものかと思っていた。

「み、見たのですか!?」
「見た、というより目の前にあったから見えたというか……」
「ダリア様! この男は変態ですよ! 毎晩毎晩窓からやって来ているんです!!」
「えぇっ!? 毎晩!? だってあの日以降はずっと隣に居なかったわよ!?」
「ダリア様のベッドにやって来るこの男を、僕が毎晩追い返しているんです!!」

まさかの衝撃の事実だった。
ベッドに忍び込みたい、というような様子はあったけれど、来なかったから安心していた。
疑いもしなかった。

しかも、窓から!? 毎晩毎晩あのバルコニーを乗り越えてきていたとは!?

「ノクサス様。変なことをしないでくださいと言ったじゃないですか!?」
「泣いてないかと、心配だっただけだ!」
「変態め! ダリア様を守る気がないなら近づくな!!」
「変態ではない! 少し黙ってろ!」

ノクサス様は、「変態! 変態!」と連呼するミストに困りながらも怒ってしまった。

そして、一呼吸おき私に静かに聞いてくる。
ミストは、「フンッ」とそっぽを向いた。

「隠していたのは? 誰かに見られて不味いという事か?」
「……私を傷つけた男たちが、私を探していたそうです。お父様は偶然知ってしまって……私を守ろうと、必死で隠していました。定期的に誰かが私の経歴を見てないかも、確認していたのです」

私を襲った男たちが、私を恨み探していることをたまたま記録庫に行った時にお父様は知ってしまった。
その時は、仕事だと言って、その経歴を探される前にすぐにお父様が持って出た。でも、いつまでも、お父様が隠していると、私がルヴェル伯爵令嬢だとばれる、とお父様は案じ、師匠に相談していた。

そして、私たちは誰に見られてもわからないように、師匠が魔法をかけたのだ。





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