英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。

自業自得

ダリアを、邸に連れていき、ベッドで休ませている。
眠っているダリアを愛しく撫でていると、村に置いてきたフェルがそろそろ戻る頃だと、騎士団に呼ばれた。
なんとか、ダリアを邸に連れて行くまでは出来たが、ずっとはいられない。
仕方なく騎士団に向かわねばならなかった。

ダリアの部屋には、ミストがいるし廊下にはロバートを置いてきた。
邸には、アーベルもいるしダリアは大丈夫だろう。
それでも、いつ目が覚めるかわからないが、目が覚めた時には側にいてやりたかった。
こんな時にまで、ダリアの側にずっといてやれないことが、歯がゆい思いだった。



ダリアを想いながら、フェルとひと気にない牢を歩いていた。
5人の男たちは、皆が怪我の大小あるも血を流している。他の拘置者には見せられなかった。
だから、他の拘置者がいない古い牢に連れて来ていた。
牢の陰から男たちを見ると、皆がすすり泣くような、それでいて唸っている。

「ノクサス様。あの男たちが、ダリア様を見つけた経緯を聞きました」

一年も見つからなかったのに、最近見つかった経緯が知りたかった。
ダリアを危険から遠ざけたいのだ。

「この男たちの中に、ノクサス様のことを知っていたやつがいました。……それが、ダリア様を以前に助けたのは、ノクサス様だと言うのです……それで、足取りのないダリア様が、ノクサス様と接触するかも……と、よく公開訓練場を訪れていたそうです。最近になり、やっとノクサス様に会いに来たダリア様をお見かけしたそうで、そこから情報を辿ったそうです。ダリア様が、ノクサス様を訪れたことは、騎士団の中でもちょっとした噂になっていましたから……ダリア様を特定するのは、容易だったと思われます」
「あの時か……」

俺はリヴァディオ伯爵家の嫡男だ。社交界にも出たことはあるし、これでもそれなりには、有名だ。しかも、伯爵家の嫡男が騎士団長になったのだから……。
貴族の令息なら、俺を知っていても不思議ではない。

俺とダリアが接触したことで、危険が迫っていたことに、誰も気付かなかった。
ダリアと俺を結びつけるものがなかったからだ。それを知っていたのは、記憶喪失だった俺と、この男たちだけだったのだ。

俺のせいか……。
声を押し殺し、息をのんだ。

あの時、俺に斬られて腰を抜かすような臆病な男たちが、こんなことをするとは思わなかった。斬られただけなら、男たちも社交界で知られたくないだろうから、隠したかもしれない。
だが、ユージェル村にいたマリスは、ルヴェル伯爵を穏やかな、人の良い方だと言っていた。
まさか、セフィーロもダリアの父上も男たちが許せずに、報復するとは思わなかった。

「……三人の男たちの家族が、ダリア様と、ノクサス様に謝罪したいと申し出ています。息子たちにも会わせて欲しいとの申し出もあります」
「面会は認めない。謝罪はダリアにするべきだ。だが、ダリアには会わせない。彼女が、回復するまでは邸からは出さない。誰にも会わせるつもりもない。誰が来ても追い返せ」

会わせる気には、なれなかった。

男たちのうちの2人は、すでに家から勘当もされており、その家からは誰一人来てなかった。
その2人がダリアを恨んでいると、白状したらしい。
女を襲い、腕は使い物にならない息子に見切りをつけたのだろう。
勘当された男2人は、自棄をおこしダリアをまた傷つけようとしたらしい。
力でねじ伏せ、呪いを解かせようとも、思っていたと渋々白状したと……。

残りの3人は、勘当こそされなかったらしいが、肩身は狭く、それ以上にダリアに呪いを解いて欲しかったらしい。いつ死んでしますかと、毎日が恐怖だったと。
それで、必死でダリアを探し続けていたと、白状した。
最初は、家族も不憫に思い、ダリアの捜索に手を貸していたらしいが、見つからないダリアに、かさむ金。その上、人を介せば息子たちの所業がバレてしまうために途中からは、どの家族も力にはならなかったらしく、そのせいで、自分たちで必死になってダリアを探していたようだった。

助ける気にはなれない。そもそもダリアは能力が低いと言っていた。
能力の低い白魔法使いが、あのセフィーロの魔法を解けるとは思えない。
だが、ユージェル村は負傷者を受け入れていた村だ。能力の低い白魔法使いが従軍するわけがない。……まだ、隠していることがあるのだろう。

「男たちに会いますか?」
「今はやめておこう。俺が、今姿を現せば謝罪はするだろう。だが、それは俺を敵に回したくないだけだ。ダリアへの謝罪ではない。むしろ、謝罪したのだから、ダリアに会わせてくれ……と懇願してくるのではないか? それではなにも変わらん」
「男たちの処分はどうしますか?」
「しばらく、牢に置いておけ。頭を冷やさせろ」

そう言って、男たちに会うことなく、フェルと牢をあとにした。

執務室に戻ると、フェルからマレット伯爵には、上手く説明したと報告を受けた。
マレット伯爵自身も村に被害がなければ深くは聞いてこなかったらしい。
こんな性格の男だから、ルヴェル伯爵はダリアのための金をマレット伯爵から借りていたのだろう。

「……フェル。記憶が戻った」
「ほ、本当ですか!?」

記憶が戻ったことを伝えると、驚くもホッとしていた。
従騎士であるフェルには、ずいぶんと面倒をかけた。
記憶喪失の間は、フェルのおかげでなんとか仕事もこなせていたのだ。
そして、男たちから聴取したことに合点がいったようだった。

「あぁ、本当に良かったです。一時はどうなることかと。……やはり、ダリア様のおかげですか?」
「そうだ。ダリアがいたから、思い出したんだ」
「やはり、ダリア様とは以前にお会いしていたのですね? でも、それならどうしてダリア様は初対面だと言われたのでしょうか?」
「……出会っていたが、ダリアは俺だと知らなかったのだ。あの時は、目も見えてなかった」

フェルには、あの時の事件を話した。
ダリアを守るためには必要だ。それに、フェルは信用している大事な従騎士だ。
口の軽い男でもない。

「フェル。俺はダリアを守るぞ。発端はあの男たちの嫌がらせだが、男たちを斬ったのは俺だ。そして、そのあとが治らないようにしたのは、彼女の師匠のセフィーロだ。ダリアには、なんの罪もない。彼女に償わなければならん」
「ノクサス様のせいではありませんよ。まぁ、あんな恐ろしい呪いをかけられて、男たちも苦しんだのでしょうけど……やはり自業自得なのです。ですが、ダリア様のその事件のことで罪に問うのは難しいかもしれません。なにせ、ダリア様の事件そのものが、秘密裏に行われており、ノクサス様も、ユージェル村にいたマリスという隊長も記録に残してないどころか、決して他言しなかったのですから……」
「では、罪に問うことができるのは、ダリアの屋敷での不法侵入か?」
「ダリア様を傷つけようとしていましたから、そのへんも加えましょう。不法侵入が見つかって、襲い掛かったことにするのが、自然かと……」

ダリアが襲われたことを知られないように、隠していたからそうなるのは仕方ない。
男たちの事も、戦場からの脱走騎士として処理したのだ。
急にいなくなって、誰かに探されても困るし、ユージェル村から追い出すには、そうするのが一番だった。
男たちは、不名誉な脱走騎士として名を残している。勘当されたのは、そのこともあったのかもしれない。貴族は不名誉なことを嫌うのだから……。






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