英雄騎士様は呪われています。そして、記憶喪失中らしいです。溺愛の理由?記憶がないから誰にもわかりません。

お茶会に参加しましょう

お茶会のために着替えを済ませて、ロバートさんと馬車に乗ろうとするとアーベルさんが手土産も準備してくれていた。
ワンピースドレス姿の私を「お綺麗です」と褒めることも忘れない。

「ノクサス様に、まだ伝言は伝わってないのでしょうか?」
「もしかしたら、どこかに出かけているのかもしれません」

アーベルさんが心配そうに言うと、ロバートさんも心配そうに答えた。

「気にしなくても大丈夫ですよ。ノクサス様のことだから、すぐに来てくれます」

不思議とノクサス様は、来て下さると思える。
いつも私に助けが必要な時に、駆けつけてくれるからかもしれない。

馬車で出発すると、ランドン公爵邸はそんなに遠くなくあっという間に着いた。
ランドン公爵様からの招待状を門番に見せると、すぐに案内して下さる。

馬車を降りて、ロバートさんと案内された庭にはすでにお茶会の準備は整っていた。
庭を見渡しても、美しく整えられた庭はさすが公爵様のお邸だと感嘆のため息がでる。
剪定された樹を見ると、ミストが遊ぶのにちょうどいい高さの樹もあるなぁとか思っていると、ランドン公爵令嬢様がドレス姿でやって来た。
ドレス姿といっても、夜会のような艶やかなものではなくて、お茶会用の落ち着いたフワリとしたドレス姿だった。

「まぁ、よく来てくれたわね。てっきり逃げるかと思ったのに」
「お招きいただきありがとうございます」

逃げると思われているなら来なくても良かったのだろうか?
逃げられないように、ランドン公爵様からの招待状にしたと思ったのだけれど……。
そして、お茶会にはもう一人いた。

ランドン公爵令嬢様と一緒に歩いてきたのは、見たこともない男性だ。
後ろに控えているロバートさんを見ると、緊張しているのがわずかながらにわかった。
ロバートさんが緊張する人とは、どんな方だろうか。
治療院の院長にすら、堂々と私とノクサス様の婚約をバラした人なのに。
ロバートさんに、どなたか確認しようとすると男性が挨拶をして来た。

「はじめまして。アリスの従兄弟のアシュトンです」
「はじめまして。ダリア・ルヴェルです」

アシュトンと名乗った方は、私の顔をしっかりと見ている。
物珍しそうに見られている気がする。

「……ダ、ダリア様。殿下ですよ。お顔を存じてないのですか?」

殿下……?
ロバートさんに、耳打ちされて、思わずタラリと冷や汗がでる。

ランドン公爵令嬢様は、陛下の姪と聞いていたけれど……殿下のお顔なんか知らなかった。
夜会に出席したこともないし、街の治療院になんかにいて殿下とお会いする機会なんてあるわけがない。

「失礼しました……!」
「気にしないでください。あなたが来ると聞いて私が勝手にお茶会に交ろうとしたのです」
「私ですか……?」
「ノクサス様が、あなたのためなら騎士団も辞めようとしていたくらいですからね。どんなご令嬢かと、興味がありました」
「す、すみません……」

興味本位で来たのだろう。それくらいノクサス様の婚約者が珍しいのだとわかった。

「アシュトン。目的がお済みなら、もう帰ってちょうだい」
「お茶会に交じると言ったでしょう? それとも、私がいては困ることでもあるのか?」

ランドン公爵令嬢様は、アシュトン殿下がお茶会にいることに、なんだか不機嫌だった。

そのままランドン公爵令嬢様をじっと見た。
どう見ても呪われているようには見えない。
私は、白魔法使いだから呪われていれば、ノクサス様のように黒いモノが見えるはずなのに……ランドン公爵令嬢様にそんなモノは全く見えない。すごく元気だし……。
でも、穢れに敏感なミストがああ言ったのだから、絶対にノクサス様の呪いと関係があるはずだ。

お茶会が始まり、美味しい紅茶とお菓子が出された。

「ランドン公爵令嬢様。お招きありがとうございます。でも、どうしてお誘いを?」

ふてくされてお茶を飲んでいるランドン公爵令嬢様に、遠慮がちに聞いてみた。
そして、ジロリと睨まれる。

「……本当に婚約をしたのかしら? と思って、お聞きしたかっただけよ」

本当にそれだけなのだろうか?
それなら、アシュトン殿下がいるだけで、こんなに不機嫌になるのだろうか?

「どうせ、ダリア嬢に別れろ、とか迫るつもりだったのだろう? 私が、ちょうど様子を見に来ていて残念だったな」
「うるさいですわよ」

フン、と顔を横に振ったランドン公爵令嬢様を、気にすることないアシュトン殿下が話しかけて来た。

「ノクサスとは、いつ結婚式を? もちろん私も招待してくれますね」
「はい。結婚式の日程はまだ決まっていませんが、ノクサス様にはすぐに挙げたいと言われていますので……その、準備が出来れば挙げると思うのですが……」
「ノクサスは、待てないのでしょう。あの男が、女性の話をしたのは初めてですからね」

ノクサス様にとって、私だけなんだと言われているみたいで少し照れてしまう。

「一時に気の迷いかもしれないわね」
「そんなわけないだろう。まったく……なにを言っているんだ」
「……大体、ノクサスはまだ顔が治ってないでしょう? あなたでは役に立ってないのではないの?」
「そのことなら、もう大丈夫です。顔を治す目途は立ちましたから」

その言葉にランドン公爵令嬢様は、焦っている。

「どうやって? あなたたちでは治せないから、そのままだったでしょう!?」
「……私が治せるとおかしいですか? これでも、白魔法使いですよ?」
「アリス……急にどうしたんだ? 治せるなら、問題はないだろう? このままのほうが、色々困るぞ」

アシュトン殿下は、不思議そうにランドン公爵令嬢様に聞いた。
でも、私たちでは治せない、と言われて違和感があった。
ミストが穢れを見なかったら気にもならなかったかもしれない。
私の能力が低いと思ったままなら、そう思うだろう。でも違う。ランドン公爵令嬢様は、騎士団の白魔法使いたちのことも指しているのだ。
ノエルさんは決して能力の低い白魔法使いではなかった。
実際に、ノエルさんのおかげで呪いは抑えられており、ノクサス様は普通の生活が出来ているのだ。

なにか隠していると、直感が走る。
ランドン公爵邸を調べたくなって来た。でも、没落伯爵令嬢が、公爵邸を調べたいと言っても、調べさせてくれるわけがない。
ランドン公爵令嬢様のほうが、身分が上なのだ。

アシュトン殿下なら、味方だろうか? わからない。もし、ランドン公爵令嬢様がノクサス様の呪いと関係あるなら、どうするだろうか。

「……すみません。お花を詰みに行ってもかまいませんか?」
「なら、メイドに案内させるわ」
「ありがとうございます」

ランドン公爵は、陛下の親族だ。王侯公爵なのだ。
邸を正式に調べることは、きっと難しいだろう。
それにせっかく来たのに、なにもわからずに帰れない。チャンスは無駄にしたくない。

そう思い、ロバートさんと一緒に邸にお花を摘みに行く事にした。




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