メルティ・ナイト
今度は聞こえるか聞こえないか微妙な声量で、ヒソヒソと噂されている。
どうやら、いまわたしの腕を引いている彼は、みんなに恐れられている人物のようで。
わたしが彼と接点があると気づくと、急に場が凍りついたもの。
見た目が派手な人たちだらけの不良学校(?)なのに、一見まともそうな彼が歩くだけで、どうしてこんなにも静まり返るのだろう。
たしかに威圧感とオーラがあると思うけど、正直、不思議だなと思った。
そういえば、赤坂さんというのは、この人の名前なのだろうか。
相変わらずビクビクしながら後ろをついていくわたしに、彼は至って普通に話しかけてくる。
「すずかちゃんだっけ。転入生なら校長室探してんじゃないの?」
突然の名前呼びにドキッとしながらも、その柔らかい声音とその言葉に慌ててうなずく。
「そうです……!校長室がどこか、忘れちゃって」
「あっは、まあこんな獣みたいな男たちの巣窟に来たらそーなるよねえ」
獣みたい、と比喩した彼の言葉に思わず首を縦に振りたくなる。
だけど、そんな巣窟に転入してしまい、さらに逃げ帰ろうかと思っていた矢先に、親切にも校長室に案内されているのだから、もうどうしようもない。