メルティ・ナイト
こんなに綺麗な人が、この世に存在していいのか。
本気でそう思うほど、黒髪の彼は美麗だった。
赤坂さんと出会ったときも衝撃だったけれど、この人は別格だ。
目が離せない。離したくても、離れない。
まっすぐにわたしを見下ろす桃花眼は透き通っていて、眩しかった。
硬直して声が出せないわたしに変わって、赤坂さんが呆れたように彼に話しかける。
「……茉央さ、そのタイミングの良さ怖いからやめてくんないかな」
あ、マオちゃんとおなじ名前……。
赤坂さんの言葉に反応したわたしに、彼は少し笑った。
そんなわたしたちの心情はつゆ知らず、黒髪の彼────茉央さんはなんでもなさそうに言う。
「美六が昼食べてないから、購買で買ってあげてた帰り道だっただけ」
「そりゃどーも」
美しいふたりが話していると、目を惹くどころか近くにいることが烏滸がましく感じる。
手持ち無沙汰におろおろとした結果、とりあえず彼らとの距離を開けた。
その間も、茉央さんは手に持っていたメロンパンを赤坂さんに投げ、それを受け取った赤坂さんが満足げにうなずいている。
「さすが茉央。俺の大好物の人気ナンバーワンのメロンパン、死守してくれたんだ」
「田中にちょーだいって言ったらくれた」
「おまえ……平然とカツアゲするなよ。田中ばり不憫じゃん。まあ、申し訳ないからもらっとくけど」