身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


 今、水瀬先生はどんな顔をしているのだろう。

 見えない居間の様子に、飛び出していきたい衝動に駆られる。


「突然お邪魔して、申し訳ありませんでした。お時間頂戴しました」


 二度おばあちゃんに帰ってくれと言われた水瀬先生は、丁寧な挨拶を残し立ち去る。

 行きたい。会って、話したい。

 部屋から出て行きたい気持ちが勝りそうになって、自分を引き留めるようにその場に崩れ落ちた。


「っ……うぅ、っ」


 行ってしまう。この機会を逃せば、もうきっと会うことなんてない。

 堰を切ったように我慢していた涙が溢れ出す。

 しばらくして、外で車のエンジン音が聞こえた。

 飛びつくようにして窓の端から外を覗くと、ちょうど車が発進するところだった。


 水瀬先生……ごめんなさい。ごめんなさい……。


 静かな部屋の中で遠く離れていく車の音を聞きながら、やりきれない切なさにいつまでも嗚咽を漏らしていた。

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