身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
「あ、バレたか。そう、近くの公園にね。今、カルガモも親子が見られるから、描きに行こうと思ってさ」
「田舎に出すんだろ? ほんと、まめだなー」
「まめとかじゃないよ。元気でやってるっていう知らせだからさ。ほら、若い人みたいにスマホでメッセージのやり取りとかできないじゃん?」
「それにしたって、手作りの絵はがき作ってって、なかなかできることじゃないだろ」
「それは、趣味だから。むしろもっと描きたいくらいだよ」
中学生のときに美術で行った写生の授業から、風景画を描くことが趣味になった。
それが今は絵はがきを作ることに進化して、暇を見つけては小さなキャンバスに風景画を描いている。
鉛筆で下絵を描き、色鉛筆や水彩絵の具で色付けをする。
そんな大そうなものではないけれど、田舎の祖母や患者さんに贈ると喜んでもらえるから私も嬉しい。
「三〇三号室の佐々木さんと田中さん、お前から絵はがきもらうの楽しみだってこの間言ってたよ。ベッドのところにも飾ってるしな」
「うん。私の描いたので喜んでもらえるならまた描きますねって」
私が運ぶはずだった配膳車を遼くんが押し始める。「戻るついでに持っていくから」と言い、仕事を請け負ってくれた。