身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


 身を引く? 相応しい婚約者?

 まるで他人の話を聞いているように理解に苦しむ。

 なぜ、菜々恵が身を引こうなんて思う必要があるのか。

 見合いの席に連れて行かれたことはあっても、婚約者なんて今までいたことはない。

 なんで……なんでもっと早く話してくれなかったんだ。彼女に頼まれて嘘をついたと。

 そう彼を責めたくなる気持ちをぐっと抑え、言葉を呑み込む。ここで彼を責めるのは筋違いだ。


「しばらくは嘘に付き合ってくれと頼まれたんですよ。アイツなりの事情があってですから、仕方ないです」

「事情?」


 引っかかるフレーズに訊き返すと、笹原は一瞬〝まずい〟というような表情を見せる。


「それは、俺の口からは言えないですから、これ以上は勘弁してください」


 笹原はどこかバツが悪そうに言い、すぐに「でも」と話を続ける。

< 134 / 246 >

この作品をシェア

pagetop