身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


 不意に後方から名前を呼ばれ、びくっと肩が跳ねる。


 え……?


 低く落ち着いた、穏やかな声。間違いなく知っている声に振り返ることができない。

 だってそれは、聞こえるはずのない声。もう、長い期間聞いていない声。

 固まったままでいると、気配が少しずつ近づいてくるのを感じ取る。

 何も信じられないまま体をよじり、その先に見えた光景に時が止まったような感覚に陥った。

 山に囲まれた野原には似つかわしくないスタイリッシュなスーツ姿。

 顔を見た途端、これまでしばらくずっと穏やかだった鼓動が、思い出したように動き出したようだった。

 その音は、もうずっと忘れかけていた音──。


 水瀬、先生……?


 目にしても信じられない。

 私を見つめる水瀬先生はじっと目を逸らさず、端整な顔にわずかに笑みを浮かべた。

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