身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む
「仕事での会食とはいえ、男とふたりというのは問題なかったのか」
「それは、全く! 後ろめたくなる相手もいないので」
私の返答に水瀬先生は微笑を浮かべる。
初めて真正面から笑みを浮かべた顔を見て、心臓がドキッと高鳴った。なにより、こんな近い距離で水瀬先生と顔を合わせることが初めて。
いつも遠目から見かけるだけの、私にとったら雲の上の人だから。
院内ではいつも緊張感を纏った厳しい表情をしている印象で、実際にスタッフたちからも水瀬先生は怖いなんて言われている。
主に一緒に仕事をするオペ看は、いつも水瀬先生の機嫌を損ねないようにとピリピリしているくらいだ。
そんな水瀬先生だから、こんな風に笑みを浮かべたりもするのかと発見したような気持ちになっていた。
さっき去っていった黒服のスタッフが「失礼します」と戻ってきて、すでにセッティングされている背の高いグラスにスパークリングウォーターを注いでいく。
そのあとすぐに前菜のプレートが運ばれてきた。
グラスを手に取った水瀬先生は、私へと乾杯を求める。慌ててグラスに手を伸ばし、乾杯に応じた。
カチンと控え目な音がテーブル上で響く。