身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


「あ、な、何言ってるんですかね。体が豆腐って」

「やっぱり、今日誘って正解だった」

「え……?」

「前から、一度話してみたいと思っていたから」


 思ってもみない言葉に目を見開く。

 前から? 水瀬先生が、私と話してみたかった……?


「私と、ですか?」


 確認をするように訊いた私に、水瀬先生は「ああ」と頷く。フォークとナイフを手に取り、私にも「食べて」と食事を促した。


「患者が君の話をしているのをよく聞いていた。それから、自分の目で君を探して見るようになった」


 坦々と水瀬先生は話すけれど、平常心で聞ける内容ではない。

 心の中では『えぇ!?』を連発している。


「いつ見かけても一生懸命に仕事をしていて、それにいつも笑顔で。患者に慕われるのも納得だった。だから、この間の土曜の朝の件は、俺にとってはラッキーだった。君との接点ができたから」


 これはあくまで、仕事の姿勢を褒めてもらっているだけ。

 決して、私個人に対して何か特別な感情があるという話ではない。

 水瀬先生がたくさん褒めるような言葉を並べてくれるから、だんだんプライベートな自分が褒められているような気分になってしまった。

 本当に、勘違いも甚だしい。

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