身を引くはずが、敏腕ドクターはママと双子に溢れる愛を注ぎ込む


 こんなところでまた顔を合わせるなんて思いもしなかった。

 でも、彼女が水瀬先生と言葉を交わしていた手前、〝病院スタッフ〟の身として会釈をする。

 彼女は私の横の鏡の前に立ち、バッグから口紅を取り出した。


「婚約が決まったの」


 微妙な空気に耐えきれず、立ち去ろうとしたときだった。

 静かなパウダールームに彼女の弾んだ声が響く。


「彼、自分のところのスタッフにも気遣いができる素敵な人よね」


 彼女の声に負けじと、自分の鼓動も激しく音を立てていく。

 目の端に映る彼女は、口紅を塗り直すとそれをバッグに戻し、髪を手で整えた。


「これからも、病院スタッフとして彼をサポートしてくださいね」


 鏡の中で目が合い、にこりと可愛らしい微笑みを見せられる。彼女は「では」と言い立ち去っていった。


 やっぱり、婚約者なんだ……。


 婚約相手から直々に証明された事実は、崖っぷちでぎりぎり落ちまいと掴まっていたような私を、一気に谷底へと突き落した。

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