どうにもこうにも~恋人編~
 脱衣所の鏡に映る自分の裸を見て驚いた。

「こんなにいっぱい…」

 身体のあちこちについている赤い印。いわゆるキスマークというやつだ。一度首元につけられたことがあったがその比ではない。彼からの愛が目に見えて伝わり、身体がじんわりと熱くなるような気がした。

 熱いシャワーを浴びて汗を洗い流す。当たり前だがキスマークが流れ落ちることはない。赤い跡にひとつずつ触れて彼にされたキスを思い出し、無意識に顔がにやけてしまう。遂に彼と心も身体もつながることができたのだという実感がそこにある。

ただ、シャワーを浴びながら再びモヤモヤと胸のあたりに靄がかかる感覚が戻ってきた。あんなふうに頼もしくリードできるのはそれまでの経験があるわけで、私にしたような情熱的な愛の行為を元カノさんともしていたのだ。

消えない嫉妬心。

消せない嫉妬心。

この真っ黒な嫉妬心も、シャワーでは洗い流すことができなかった。

 浴室を出て脱衣所に置かれていた彼のスウェットに着替え、寝室に戻ると電気がついていた。彼は丁度ベッドのシーツを取り換え終わるところだった。Tシャツにパンツという不思議な出で立ちで目のやり場に困ってしまう。

「上がったんですね。私もシャワー浴びてきます。先にベッドに入っててください。電気消しときますね」

「はい」
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