a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
「なになに、そんなにのめり込んじゃうくらい可愛いの?」
「めちゃくちゃ可愛いよ。良い子だし」
「でも旅行者なら帰っちゃうよなぁ。どうするの?」
「……まだ考えてない」
その時だった。
「周吾〜!」
声がして振り返ると、絢斗が小走りにこちらに向かって駆けてくるところだった。
「どうした?」
「あっ、先輩もいたんだ。それがさ、周吾がゾッコンのあの子がさ、美人な女の人と一緒に漁港に来たんだ。でもちょっと雰囲気が険悪というか……気になったから一応周吾に知らせておこうと思って」
「えっ……でも那津さん、こっちに知り合いなんていないはずだけど……」
「じゃあ住んでる場所の知り合いとか?」
「いや、誰にも行き先は言っていないはず……」
周吾ははっとする。いるじゃないか、那津さんの居場所を知っている人間が……。だけどあいつは男で……あぁ、そうか。浮気相手にならそのことを漏らすかもしれない。
でも何をしに来たんだ? 嫌な予感しかしなかった。
「殿山さん、悪いんだけど、俺ちょっと行ってくる」
「えっ……周吾⁈」
周吾は居ても立っても居られなくなり、漁港に向かって走り出した。