a piece of cake〜君に恋をするのは何より簡単なこと〜
「あ、あんた誰よ!」
「那津さんの友達ですよ。それにしても、何を根拠に音声が録れていないなんて言うんですか? 佐藤理奈さん」
「何で私の名前……!」
那津は目を見張る。周吾くんに彼女のことは何も話していない。貴弘との会話で苗字は知っていたとしても、下の名前までは出なかったはずだ。ということは……。
「……録れていたの……?」
周吾は那津の顔を見ながら頷く。
「那津さん以外の女の声っていうか、胸糞悪い奴らの最中の声なんて吐き気がするけど、ちゃんと証拠は残ってるんだよ。しかもそれだけじゃない。あんたがあの男を誘導する場面もしっかり録れてたし。あれでよく証拠がないとか言えるよな」
女は無表情のまま周吾を睨みつける。
「あーあ、本当に最後までクソみたいな女ね……」
そう呟いてから那津の方に向き直り、突如那津の体を両手で押したのだ。バランスを崩し、那津の体が宙に浮く。
「那津さん!」
那津を見下すように見ている女の視線が突き刺さる。
そして大きな音と水飛沫が上がる中、那津の体は海の中に消えていった。