かぐわしい夜窓
儀式が終わり。湯浴みをして、巫女である自分を、十年ぶりに、ただの村娘に戻す。


金の粉は落とした。

しゃらしゃらと鳴る装飾は引き継いで、もう次代の巫女へ。


いいえ、今代の巫女ね。

わたくしは、先代になったのだわ。巫女さまではなく、先代さまと呼ばれる。


いろいろあったけれど、楽しい十年だった。


歌を歌うのが好きだから、おつとめは楽しかったし、歌まもりさまはよいおひとだったし。


自由だと思うと、解放感がすごい。

全身ぴかぴかのきんきらきんだったときは目立たなかったのだけれど、他がなくなると、指先に残った金だけが異質な輝きをしていて、よりはっきりとする。


とんとん、と扉を叩く音。


「様子を見てまいります」

「ありがとう」


世話係が扉に駆け寄ると、「先代さまはいらっしゃいますか」と歌まもりさまの声が聞こえた。

ああ、こちらも先代、の歌まもりさまになるのだった。


「お話するお約束をしていたものですから、お会いしにまいりました。ご準備はお済みですか?」

「ええ、いまはお寛ぎになっています」

「そうですか。では、しばらくお邪魔したいと存じます。お伺いをお願いします」


先代歌まもりさまと世話係のやりとりにもどかしくなって、世話係の背中に向かって声をかける。


「わたくしは構いません。お通ししてちょうだい」


わたくしの声は、扉越しに歌まもりさままで聞こえたらしく、笑う気配がした。


うっ、聞き耳を立てていたようで子どもっぽかったかもしれない。


世話係がお茶を置いて退出する。


歌まもり……先代歌まもりさまは、失礼しますと入れ替わりに入室すると、扉を閉め、穏やかに微笑んだ。
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