かぐわしい夜窓
目を彷徨わせ、窓の外を見遣り、足元に視線を落とし、ゆっくり顔を上げ。

じっと見つめるわたしと、目が合って。


「俺は、ザカリー。ザカリー・トラル」


ようやく、名前を教えてくれた。


「ザカリー、さん」

「サシェ。俺はサシェって呼びますから、サシェも、ザカリーでもザックでも、なんでもどうぞ」

「ザ……ザック、さま、」

「さまはだめです」

「えっ、じゃあ、えっと、ザックさんにします」

「ええ……?」

「あなたは貴族なのに呼び捨てなんて無理です!」


あなたは歌うたいでしょう、と呆れたような声が降った。


「一度歌うたいになったら、存命の間、今代歌うたいに次ぐ最高位になる。ましてや十年もつとめ上げたのだから、ただの貴族などよりよほど高位な身分ですよ」

「き、気持ちの問題です!」


えええ、と不満そうな様子は見ないふりをして、ぎゅっと手を握って、開いた。


「ザックさん。わたし、あなたのおうちに行ってもいいですか」
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