かぐわしい夜窓
差し出した手をするりと取られる。


手の大きさと硬さに気を取られている間に軽く引き寄せられて、ぎゅう、と抱きしめられた。


「歓迎します。大事にします。一緒に、暮らしたい」


まずは、窓辺に飾る花を贈らせて。


「え」


ほんとうにくれるの。あれは、下手なお誘いしか思いつかなかったから言ったようなものなのに。


「サシェ、花好きでしょう」

「す、好きです」


知ってる、と笑われた。


「だから、俺が贈りたいです」

「ありがとうございます……」

「どういたしまして。他になにか、俺にできることは?」


してほしいことじゃないんだ、と思った。ザックさんの言葉選びは、場所や役職にかかわらず、いつも優しい。


「これからも、おやすみなさいって言ってほしいです」

「はい。今日も言わせてくださいね。他には?」

「サシェって十年も呼ばれなかったから、寂しかったの。だから、これからたくさん呼んでほしいです」

「もちろん。それから?」


そ、それから?


お願いを聞いてもらえすぎて、うんうん唸って考える。


「したいことでもいいですか」

「どうぞ」

「う、歌を、邪魔にならない程度でいいから、歌いたいです」

「それはぜひ毎日でもどうぞ」


サシェの歌、好きなんです。
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