かぐわしい夜窓
「好きなんですか」

「好きなんです」


食い気味に言われてびっくりした。そんなの、十年間ずっと知らなかった。


あなたのこと、大抵は知っていると思っていたけれど、知らないこともやっぱりあるんだわ。


歌を好きでいてもらえたなんて、あまりにも嬉しい。

どうしてもお役目中に聞こえてしまうものが、邪魔でなかったとわかるもの。


毎日同じ歌が同じ時間に聞こえたら、大抵のひとは、いやになるか、気にしなくなるかすると思う。


それを、大事にしてくれるなあとは思っていた。

大事にしてくれるだけじゃなくて、好きでいてくれたなんて、夢みたいだ。


「サシェ、俺からもお願いしていいですか」

「はい」

「話しやすい口調で話しませんか」


俺たちはもう、巫女でも、歌まもりでもない。これから一緒に暮らすんだから、別に、敬語にしなくてもいいでしょう。


「えっと、でも、わたしより年上でしょう」

「一緒に暮らすのに、年齢は関係ないんじゃないかなあ。正直に言って、俺が話しにくいので崩しませんか」


うう、と顔を覆う。絶対わたしが言葉を選ぶからだと思う。


「そういうところ、好きです……」


こちらは私じゃなくて俺と言われるのでさえ喰らっているような有様なのに、ふは、と砕けた笑い方をするから、もう耐えられなかった。


顔が熱い。赤い自信がある。


「それは了承でいいの?」

「うん……いっぱい笑ってくれるところも好き……」

「ありがとう。好きなひとといるんだから、それはだれでもいっぱい笑うと思うよ」


ひええ。好きなひとと言うのにためらいがない。


当たり前みたいに言うものだから、こちらがすごい勢いで喰らってばかりいる。
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