嘘つくつもりはなかったんです! お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。
 鍛錬場の隅でくつろぐ休憩中のお兄様をつかまえて、王宮でのお茶会のことを相談するためだ。

「リアリムお前、そんなにウィルストン殿下が嫌なのか?」

 私の手作りクッキーを摘まみながら、呆れたような顔をして聞いてきた。

「あのね、全然話したこともない方なのよ。いいも悪いも、わからないわ。でもね、殿下の婚約者になるってことは、ゆくゆくは王妃になるかもしれないでしょ。無理。絶対に、無理」

「うーん、そうかぁ。あんなにハンサムなのに、お前のセンサーには引っかからないんだな」

「ハンサムは、ハンサムだと思うけどでも、イザベラ様が気に入っている方なのよ。私なんか、お呼びじゃないわ」

 私も一つ、クッキーを口に入れる。うん、我ながら上手に焼けた。

 転生前の私の趣味は、お菓子作りだった。休日にはお菓子作り教室とか、パン教室にも通っていた。

 といっても、かつての私は焼きすぎたお菓子を処理する方が大変だった。

 が、今や騎士団で働くお兄様へ差し入れすれば、瞬く間に消費してくれる。

 私はお菓子をつくっては、この騎士団の鍛錬場に持って来ていた。





「イザベラ様かぁ、それは関係ないんじゃないか? 要はお前の気持ち次第だろう?」

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