魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
(どういうこと?)

 私の反応にエブリア様も戸惑っているようで、私からなるべく離れるように後ずさったオランに話しかけた。

「無意識に魅了魔法を放つことはあるの?」
「さぁ? そのようなことは聞いたことはありませんが、師匠に聞けば、もう少し詳しいことがわかるかもしれません。私が魅了を打ち消せるのも、師匠にいただいた護符と打ち消し魔法のおかげですから」
「そう。アイリ様はその魅了魔法の消し方はわからないのよね?」
「はい……。申し訳ございません」

 試しに、消えろ消えろと念じてみるけど、なにも変化はなく、そもそも使ってる覚えのない魔法を消せる気がしない。
 私を眺めながら、エブリア様は思案しているようだった。
 頭から私を不届き者と決めつける方じゃなさそうでよかったけど、どうしようと思っているのかしら?
 でも、私のやっかいな体質の原因が魅了魔法だとしたら納得がいった。

(今までのことは、私のせいだったの? どうしよう?)

 泣きそうになる。
 だけど、この体質をエブリア様に伝えるのは怖い。
 身に覚えがないけれど、私が悪さをしているのが確定になりそうで。
 途方に暮れていると、エブリア様が手にもてあそんでいた扇子をパンと手に打ちつけた。
 ビクッとすると、エブリア様が苦笑した。

「そんなに怖がらないで。とりあえず、情報が足りないのがわかったから、こちらで調べてみるわ。スウェイン様に護符をお渡しできたらいいのだけど」

 急に物憂げな表情になり、それを振り払うようにエブリア様は首を振った。

「今日はこれでいいわ。これからはたまに情報交換しましょう」

(解放された?)

 王族に魅了魔法を使った罪で拘束されてもおかしくはないと思ったのに、エブリア様はあっさりとそう言った。
 彼女の気が変わらないうちに、私は手短に挨拶をすると、そそくさとサロンを出た。





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